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ほとばしるほどの才能に恵まれていながら、運がない菓子職人。ジェフリー・カーニュ氏には、そんなイメージを持っていました。

数々の有名店で腕を磨いた後に独立して自らの店をオープンさせるも、1年と経たぬうちに惜しくも閉店。

紆余曲折を乗り越えた若手実力派菓子職人は、今ではパリで最も古い歴史を持つケーキ屋「ストレー」に新風を吹き込み、大活躍しています。

カーニュ氏の代表作のひとつTarte Citron(レモンパイ)。爽やかな酸味とエレガントな甘さのバランスが絶妙!5.90EUR

■実力派のちょっぴり残念な過去

 

ジェフリー・カーニュ氏(Jeffrey Cagnes)が自らの店を立ち上げたのは2016年11月。店名はCasse Noisette(=バレエの演目のタイトル「クルミ割り人形」と同じ。場所はパリ2区のオペラ大通りに面する一等地。ブティックの上階がサロン・ド・テになっていて、広々とした空間を贅沢に使った店舗でした。

 

美味しいケーキが食べられる素敵なアドレスだったのですが、危険をはらんだ冒険だったのではないかとオープン当初から思わせる展開でした。

当時すでに業界内では、将来有望な若手パティシエの筆頭格に挙げられていたカーニュ氏ですが、世間での知名度はまだまだ低く、オペラ通りの一等地は荷が重かったように感じます。

サンジェルマン・デ・プレかモンマルトルあたりの小道に店舗を構えたほうが、身の丈に合っていたのでは。

東京で例えるなら、経験値の低い若手が広尾や表参道をすっ飛ばしていきなり銀座に出店するような、また大阪で例えるなら、船場や堂島でまずは頑張ればいいものを、いきなり梅田の阪急前で勝負しようというようなもの。少々無謀だったかもしれません。

 

私が店を訪れたのは翌年1月でしたが、美味しかったカヌレ型ケーキ同様、またそれ以上に深く記憶に残っているのは、女性スタッフの劣悪な接客態度。不愛想な対応には少々がっかりしました。

「シェフが頑張っているのだから、接客のあなたが足を引っ張るんじゃないよ!」と心の声を外に出てしまわないように必死でこらえたものです。

トリップアドバイザーのレビューを閲覧すると、「ケーキは美味しかったけれど店員の態度が悪かった」と記している人が驚くほど多く、スタッフの悪評は一般化していたようです。

 

さらに結果論なのですが、立地条件やスタッフの教育問題だけでなく、採算がもっと取れるように生菓子のほかに焼き菓子やパンなどの商品数を増やしたり、サロンの座席数を増やしたりといった、ビジネス戦略をしっかり練っておくべきだったのではと思ってしまいます。

 

結局翌年には閉店。ケーキの美味しさは申し分なかったのに、残念でした。

店の裏事情を知るわけではなく、本当のところ色々と問題があったのかもしれませんが、従業員、出資者、相談者などに恵まれていなかったのが廃業理由のひとつだったのは確かでしょう。

 

この店での経験は、カーニュ氏にとっての黒歴史になっているに違いありません。

ちなみに彼のFacebookのプロフィール欄には、詳しい経歴が書かれていますが、独立に関する記述は一切ありません。

 

 

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■自身の店を失ったジェフリー・カーニュ氏を救ったのは?

 

味の秀悦さと芸術性の高い見た目の美しさを兼ね備えるケーキを創作することで高く評価されるジェフリー・カーニュ氏ほどのシェフがニートでいるはずもなく、自身の店を閉じた直後には、ストレーStohrerのシェフに。

創業者のニコラ・ストレーが考案したババ・オ・ラムにシャンティクリームをたっぷりホイップしたババ・シャンティーBaba Chantilly。6.50EUR

ストレーは創業1730年でパリに現存する最も古いケーキ屋です。

このストレーとカーニュ氏とは、実は切っても切れない関係。

まずカーニュ氏がパリに上京して、初めて務めた先がストレー。

その後、一度は離れるも、権威あるパリのグルメガイドで2012年のベストパティシエに選ばれたセバスチャン・ゴダール(Sébastien Gaudard)氏のアトリエや、ボン・マルシェデパート内のキッチンで経験を積んだのちに、再びストレーに。今度はスーシェフ(2番手のシェフ)として迎え入れられました。そこで務めること2年間。

 

そして再びストレーを辞め、パリにあるヤマザキパンや1つ星レストランのトゥーミューThoumieuxなどでシェフ・パティシエとして活躍したのちに、2015年に再々度ストレーに。今度はシェフとして。

 

さらに、2016年に独立→閉店を経て2017年には再々々度ストレーに。

ストレーに就職すること、実に4回。一職人として、スーシェフとして、シェフとして、そして独立と失敗の経験を持つシェフとして、着実にグレードアップしながらのカムバックでした。

雲のように軽い純白のクリームと、表面にキャラメルを付けたシューの味わいがまろやかなサントノレSaint Honoré。6.50EUR

 

■ジェフリー・カーニュ氏のクリエーションが老舗に新風を吹き込む!

 

独立に成功しなかったカーニュ氏を2017年に受け入れたストレーは、折しもオーナーが変わったばかりでした。

そのため、それまで存在していなかった分店をオープンさせたり、公式ホームページを一新したりと、保守的な老舗のイメージを変えようという姿勢が見られました。

ケーキのクリエーションも老舗のベーシックなラインは引き継ぎつつも、一層華やかに。

 

ブランドイメージを若返らせたい老舗は、おそらくカーニュ氏にとっても居心地の良い環境なのではと察するのですが、これまで様々なメゾンを遊牧民のように渡り歩いてきた実力派菓子職人が、いつまでも同じポストで居座るとも思えず…。

また独立を期待してしまうのでした。

 

 

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